”ペンタゴン・ペーパーズ”というのは、1966年に当時国防長官だったロバート・マクナマラの指示を受けたランド研究所がベトナム戦争の経緯や戦況を分析した報告書。当時、ランド研究所所属の国防政策研究者だったダニエル・エルズバーグは、アメリカ国民に対してベトナム戦争の実態を隠し続ける事に疑問を持ち、こっそりと文書をコピーし、ニューヨーク・タイムズ紙にリークする。
「ペンタゴン・ペーパーズ」は、ニューヨーク・タイムズ紙の大スクープに「出し抜かれた」というジャーナリストとしてのプライドと、国民に対して真実を伝えなければいけないという報道魂に突き動かされたThe Postことワシントン・ポスト紙の編集部が、最高裁から記事の差し止めを受けてしまったニューヨーク・タイムズ紙の援護射撃をするような形でペンタゴン・ペーパーズの報道に踏み切る過程を描く。
その中心になるのは、当時のポスト紙の編集長だったベン・ブラッドリーとオーナーだったキャサリン(ケイ)・グレアムなのだが、ブラッドリーを演じているトム・ハンクスとグレアムを演じているメリル・ストリープがさすがにうまい。ともすれば、ちょっとやり過ぎになるスピルバーグの演出を熟練した俳優ならではの演技力でちょうど良い”あんばい”にしているあたりには脱帽した。脇を固める演技陣の中では、ボブ・オデンカーク(「ベター・コール・ソウル」)が実に良かった。彼は世慣れたはしっこさを持つキャラクターを演じさせると特に輝く役者だと思う。
それにしても、数々の映画評が指摘していたが、半世紀近く昔の話なのに、今のアメリカと気味が悪いほどの類似性を持つのは何とも… ニクソンをトランプに置き換えたら、そのまま2017年のニュースになりそうなシーンでは観客から苦笑が漏れたほど。
スピルバーグも、この映画を作るなら今年しか無い!と思って、急ピッチで製作した「ペンタゴン・ペーパーズ」、観るなら今しか無い!