《キーロフ版「くるみ割人形」のクララ》 子供のバレエ団の「くるみ割人形」は、先週末に2回目の公演が終わったけれど、昨日は子供の学校の見学として、ダウンタウンのミュージック・センターでロシアのキーロフ・バレエの「くるみ割人形」鑑賞に出かけた。
この見学、もちろん子供たちだけのものなのだけれど、chaperoneという子供のお守り役で何人か親が付き添うことになっていて、私はチャッカリ立候補して同行した次第。(ラッキー♪)
キーロフ・バレエは、山岸涼子の漫画「アラベスク」にも登場する、ロシアではボリショイと並ぶ名門バレエ団。その「くるみ割人形」ということで期待は最大級…だったんだけれど、意外にも観てきた感想は…「ウチの子供たちのバレエ団バージョンで充分でしょう」でした。その理由としては…
1.ACTが3つに分かれている
私が過去に観た「くるみ割人形」は、全て2幕構成だった。すなわち、冒頭のパーティ・シーン→くるみ割人形+兵隊チームVSネズミの戦い→雪の精の踊りがACT 1、クララとプリンスが御菓子の国に着いて、各国の踊りを観るのがACT 2というように。ところがキーロフ版は、パーティ・シーンと、それ以降の戦いのシーン+雪の踊りのシーンが分かれて、全体が3部構成になっていた。これだと、パーティ・シーンとネズミとの戦いのシーンが完璧に分かれて話の流れが途切れてしまって良くなかった。休憩だって2度も必要無いし。
2.振り付けがちょっと…
名門キーロフとなれば、アメリカのバレエ団の共通する悩みである男性舞踊手不足も無いということなのか、男性ダンサーがふんだんに出てきた。それはそれで素晴らしい。特に、ネズミの役なんかは、男性舞踊手でなければ実現しないダイナミックな動きが出されていて良かった。ただし、最後の方のグラン・パドドゥで、シュガープラム・フェアリーをサポートするのが、彼女の相手役だけじゃなくて、花のワルツの男性ダンサーまで動員しての振り付けはやり過ぎに思えた。何でも出せば良いというものじゃないでしょう。
あと、パーティのシーンの人形の踊りの振り付けが意外なぐらい凡庸だった。道化人形、女の子の人形、黒人人形なんて3人も登場させるから、1人1人の踊りも短くなって見せ場が作りにくかったし。(しかも、そのうちの道化人形がACT 2の戦いのシーンに登場するのは不可解)
3.セクシーじゃないアラビアの踊りなんて…
これまで私が観てきたアラビアの踊りは、アラビアン・ナイトちっくな(つまりオヘソが見えた)衣装を着た男性と女性のデュオのアクロバティックでセクシーな踊りだった。それが、チャイコフスキーなりの異国情緒を出したミステリアスなメロディに合っていた。ところが、キーロフ・バージョンは、中近東系の人たちがたくさん住んでいるウエストウッドあたりを歩いていそうなイスラム女性が着るような全身を包んだバギーな衣装を着た、つまり中東のオバちゃんみたいな女性が5人出てきて、ベリーダンスのバリエーションみたいな踊りを踊るだけ。女性の私が観てもつまらなかったよ。(ちなみに、キーロフのプログラムによると、この踊りは「アラビアの踊り」ではなくて「Eastern Dance(東洋の踊り)」になっている。)
4.プロならキチンと並びましょう
この見学は、3年生の親の1人が積極的に芸術教育等に対する補助金を獲得してくれて実現したものゆえ、私たちの席は最上階のバルコニー。だからダンサーたちのサイズはかなり小さかったので、ダンサーの表情とかはあまりよく見えなかったのだけれど、逆に上から観ている分、彼らの並び具合がよくわかった。踊っている際に、列を真っ直ぐさせたり、間隔を均等にとるのは意外に難しい。それは解っているのだが、2人~4人で踊っている時の列の乱れや間隔の不均等、センターのズレなどがかなり気になった。ウチの子供のバレエ団でもそれは同様の問題ではあるのだけれど、世界中をツアーして周るプロのバレエ団キーロフなんだから、もうちょっとビシッと整列して欲しかった。
あと、細かいことを言えば、衣装(前述のアラビアの踊り。あと、ロシアの踊りも衣装がヘビーすぎて体の動きがよく分からなかった。それから、中国の踊りの衣装が黒と白で牛みたいだった。中国だったらやっぱり赤と金とかじゃないと…)、スペイン、アラビア、ロシアの各ダンスで女性舞踊手がトゥシューズを履かずに踊っていた、といった点が不満に思えた。
逆に良かったのは、やはり男性・女性のソロのダンス。技術的にも表現的にも素晴らしい。技術に自信があるから、その余裕が舞台にも出ていて安心して観られる。「雪の精の踊り」、そして「花のワルツ」の2つの群舞も素晴らしかった。1人1人のダンサーのレベルが非常に高いし、キレイに揃っていたし。
もちろん、舞台装置も素晴らしい。なんと言っても、キーロフにはロシア政府の援助もあって、御金はふんだんにかけられるからね。
でも、その御金について言えば、キーロフは、チケット代が$30~$120(+約$8の手数料)という値段。一流どころのバレエ団の公演なんだから、それぐらいの値段は当然かもしれない。ただ、30ドルの最低価格のチケットだと全てバルコニー。舞台全体が、家庭用の大型TVスクリーンぐらいのサイズになって、正直言って臨場感はあまり無い。
それだったら、全席$25のウチの子供のバレエ団の公演の方がずっとオトク感があると思った。
1人1人のダンサーのレベルは、当然ながらキーロフにはかないっこない。舞台装置だってシンプルだ。しかし、バレエのテクニックに精通していない子供たち、「くるみ割人形」の御話を子供にバレエで観させてやりたいと思う親たちといった観客には、充分、楽しんでもらえるだけのクオリティは保証できる。
でも、今回の鑑賞は、親の私にとって非常に良い勉強になった。来年以降も、もし予算が許せば、自分たちのバレエ団以外の「くるみ割人形」も鑑賞してみたいと思う。
《こちらは我が子供のバレエ団。Best buyです》
追記:ところで、先週末のロサンゼルス・タイムズ紙に、各バレエ団の「くるみ割人形」の比較記事が出ていた。ウチの子供のバレエ団も言及されていて、ちょっと嬉しかった♪