Thursday, November 24, 2011

THE DESCENDANTS(ファミリー・ツリー)



下に書いた「ヒューゴの不思議な冒険」よりも前に観たのだけれど、アレクサンダー・ペインの新作「THE DESCENDANTS」を観た。
追記:この日記を書いた時には日本公開タイトルが未定だったのだけれど、今日、届いたキネマ旬報誌を見て、「ファミリー・ツリー」になったことを知る。ファミリー・ツリー(family tree)=系譜、家系図という意味なわけだけど、カタカナ英語になっていない言葉を聞いただけで理解できる日本人がどれぐらい居るんだか…

タイトルの「descendant」とは子孫という意味だが、主人公のマット・キング(ジョージ・クルーニー)は、ハワイの王家とイギリスの実業家の血を引く名家の子孫。一族を代表して御先祖様が残したとてつもなく価値がある不動産の管理を任されている。
億万長者でありながら、自分の仕事である弁護士業からの収入だけでフツーに暮らして来たマットだが、或る日、妻が水上スキー中の事故で昏睡状態におちいる。家庭のことをいっさい任せていた妻が居なくなり、17歳と10歳の娘たちの面倒をみるのに困惑してばかりのマットだが(「僕は予備の親だったから。代役の親みたいな存在だから」とマットはモノローグで語る)、半分グレて寄宿者学校生活をしてきた17歳の娘から「ママは浮気していた」と聞かされる...

これまで自分が普通に生きてきたつもりの人生、これからもずっとこうやって生きていくだろうと思って来た人生が、突然、足下から崩れさってしまうという設定は、同監督の「アバウト・シュミット」に近い。現実に転がっていそうなドラマだが、ちょっとした人間の感情や行動が実に細やかに描かれていて、「サイドウェイズ」でも、そうやってヒーローでもなんでもない人間の喜びや怒り、哀しみや葛藤を見事に描いたペインの演出力が冴えている。そして、いつもはカッコ良いヒーローを演じているジョージ・クルーニーが、フツーの中年男を演じているのもナイス。(それでも、一般のオッサンよりはやっぱりずっとカッコ良くなっちゃうんだけどね。)

観終わった後、ふと思ったこと:見当違いかもしれないが、アレキサンダー・ペインという作家は、故向田邦子に似ていると思った。もちろん、生きている時代も文化も社会も違うけれど、人間観察力の鋭さと、思ってもみなかった瞬間にコメディを見いだす才能は近いものがあるんじゃないのかなあ...

HUGO ヒューゴの不思議な発明



マーティン・スコセッシが初めて3Dの子供向け作品に挑戦した「ヒューゴの不思議な発明」の試写に行った。

「ヒューゴの不思議な発明」(以下「ヒューゴ」)の主人公は、パリの駅に住むヒューゴ・カブレ。時計職人の父と仲良く暮らしていたが、父を失ってからは駅の時計塔の中でこっそり独りで暮らしている。
大時計のネジを巻くことを仕事とするクロード伯父さんに連れられて来た時計塔だが、伯父さんはヒューゴを連れて来て間もなくどこかへ行ってしまったので、今では時計のねじ巻はヒューゴの仕事だ。でも、ヒューゴにはもう1つの「仕事」があった。それは、父が遺した自動筆記ロボットを修理すること。ヒューゴは、父がロボットに何かのメッセージを託したと考えているからだ。
ロボットの修理に必要な部品をあちこちから盗んで来たヒューゴは、駅にある小さな玩具店でもねじ巻式のネズミを盗もうとするが、店の老主人に捕まってしまう..

ということで、ヒューゴの冒険が始まるのだが、話はロボットの謎から意外な方向へ進んで行く。この話の展開については、何も知らないでも観た方が嬉しい驚きが大きいのでここでは何も書かないが、とにかく映画好き(というかシネアスト、あるいは映画マニア)にとっては至福の瞬間が何度もあるので、お楽しみに。
それから、スコセッシが初挑戦した3D映像もとても見応えがある。1930年代のパリの駅の雑踏が、すごい臨場感で再現されているので、是非、大劇場のスクリーンの3Dで観て欲しい。

Monday, November 21, 2011

「glee」セットビジット


人気TV番組「glee」のセットビジットに行って来ました。

今回の取材ではジャーナリストではなく通訳として参加。
中庭や体育館が使われるというハリウッドに在る高校や、パラマウント・スタジオ内に在る撮影セットを訪問。実際の撮影現場も覗かせてもらって、大満足!(って、一般ファンのノリになってるし...)

インタビューでも、前回、御会いできなかったカートことクリス・コルファーや、スー・シルヴェスターことジェーン・リンチ御本人にインタビューできたのもすごく嬉しい取材でした。


スーのオフィスのセット。机の後ろにあるトロフィー・ケースには、撮影の際、照明が反射しないようにガラスがはまっていません。




レイチェルのロッカー。フィンの写真が飾ってあるのが可愛い。アメリカの女子高生たちは、実際にこうやってロッカーを飾り立てます。

Saturday, November 12, 2011

Vegas, Baby

今週の火曜、水曜と1泊2日でラスベガスへ。と言っても、ギャンブルしに行ったわけではありません。
ヒストリー・チャンネルの「PAWN STARS」という人気リアリティTVのインタビュー取材でした。


こちらが“Pawn Stars”=質屋三代の面々。


「PAWN STARS」はラスベガスにある質屋Gold & Silverを経営するハリソン一家の日常を追うリアリティTV。べガスの質屋を訪れる人々や、彼らが持ち込むユニークでレアな“お宝”を、ハリソン三代が値踏みして買い取り交渉をする様子を追う。
「PAWN STARS」はアメリカでも日本でもヒストリー・チャンネルで放映されている番組だが、世界中で大人気を博している。この取材から帰って来た翌日に足のドクターの診察に行った際、その取材の話をしたら「ああ、あの番組ね。いつも観ているよ」などと言われてこっちがビックリしたぐらい。

「PAWN STARS」についての詳しい話は、また後日、御紹介するとして、今回は久しぶりに訪れたべガスについて。
前々からわかっていたことではあるけれど、べガスはとにかく何でもデカイ!
1つ1つの建物もデカイし、食事の量もデカイし、歩いている人たちのサイズもデカイ。
泊まったホテルも、その例外には漏れず、部屋のサイズなんて独身だったら充分暮らしていけるワンルームマンション並みに広くてビックリ。

これは入り口に近いリビングルームのようなスペースからベッドルームを観たところ。無駄に広い...
べガスなんて確かに砂漠のど真ん中に位置する街だからスペースなんていくらでもあるんだろうけれど、建物のサイズを大きくすれば建材費だって光熱費だってそれだけかかるはず。地球温暖化が叫ばれ、皆がエコ生活を意識している御時世にこんな街が存在していいんだろうか、と疑問に思ってしまった。ギャンブルが主要産業であるべガスはSin City=罪深き街というニックネームが付いているけれど、貴重な地球資源を無駄遣いしているという点でも罪深き街なんじゃないのかなあ...

Monday, November 7, 2011

LINCOLN LAWYER



今週末は珍しく書かなければならない原稿の締め切りが無かったので、調子に乗って、昨日に引き続き、今日も最近見落としていた映画をDVDで観ることにする。

今夜のチョイスは、今年の3月に公開された「LINCOLN LAWYER」。
タイトルの「リンカーン」は、エイブラハム・リンカーンからではなくて、アメリカではよくリムジンサービスなどで使用されることが多い高級セダン車、リンカーン・コンチネンタルのこと。主人公のミッキー・ヘイラー(マシュー・マコノヒー)は、刑事事件を専門とする弁護士だが、同業者のようにオフィスを構えることなく、アシスタントのアールに運転させるリンカーン・コンチネンタルの中で仕事をする「リンカーン弁護士」だ。
ヘイラーのクライアントは、モーターバイク・ギャングだったりドラッグ関連のつまらない犯罪に関わる「小物」の犯罪者が多いのだが、或る日、裁判所で保釈金立替業者のヴァル(ジョン・レグザイモ)に呼び止められ、ビバリーヒルズで不動産業を営む青年ルイス(ライアン・フィリップ)の弁護を頼まれる。ルイスは娼婦に対する暴行罪を問われていたが、裕福な自分を狙った「被害者」にハメられたのであって自分は無罪だと主張する。ヘイラーも、最初は、状況証拠を見た限りでは確かにルイスを金づるとみた娼婦の狂言暴行事件だと考えるが、被害者の写真を見ているうちに、過去に自分が担当した殺人事件のことを思い出す...

「LINCOLN LAWYER」は、プロットはそれほどひねられておらず、複雑な謎も秘められていたりしないので、結末近くにあっ!と驚くどんでん返しが待ち構えているというタイプのサスペンス・スリラーではなく、前半が終わる頃には事件の全容が明らかにされる。それ以降、サスペンスの主眼は、我らが探偵役がどのように事件を解決していくかというプロセスに移行する。大ざっぱな括り方をすれば、「コロンボ」タイプのストーリー構成に近いとも言えるだろう。
このようなタイプのサスペンス作品で非常に重要なのは、探偵役のキャラである。観客は、探偵役が事件を解決、収束させていく過程を楽しむわけだから、この探偵役が魅力的でないと、興味は半減してしまう。その点、「LINCOLN LAWYER」の主役を演じたマコノヒーは、適役だった。「評決」でポール・ニューマンが演じたフランク・ギャルヴィンが20年前はこんな感じだったかも?と思わせる雰囲気がある。若い時はいかにも甘い美形のプレイボーイといった感じだったマコノヒーは、40過ぎて良い感じの中年になってきており、ちょっと不良っぽいけど正義感の強い弁護士にピッタリはまっていた。

「LINCOLN LAWYER」は、いわゆるブティック・スタジオと呼ばれる小規模の映画会社ライオンズ・ゲイトの作品ということもあり、現時点では日本公開は決まっていないようだが、上述した俳優たちのほか、マリサ・トメイ、ウィリアム・H・メイシー、ジョシュ・ルーカス、フランセス・フィッシャーといった芸達者な俳優たちがしっかり脇を固めている良質な作品なので、是非、日本でも劇場公開されることを祈りたい。

Sunday, November 6, 2011

MADE IN DAGENHAM



ハリウッドの大手映画会社の作品は、たいがい試写で行けたりするが、インデペンデント系スタジオの作品や外国映画だと、インタビュー取材などの仕事をしない限りは試写状はもらえないし、一般公開も劇場が限定されていたり、公開期間が短めだったりして、観たいと思っていてもなかなか観る機会が見つけられないうちに公開が終わっていたりして、悔しい思いをすることが多い。そのような映画は極力、憶えておいて、DVDが出てから観ようと努めている。

今夕観た「Made in Dagenham」もそんな映画の1本。
イギリス東部のエセックス郡のダーゲンハムに在る米自動車会社フォードの工場で、1968年に実際に起きた女子工員たちのストライキを素材した、いわゆる実話もの。
ダーゲンハムのフォードで働くリタ(サリー・ホーキンス)と彼女の同僚たちは、決して理想的と言えない環境の工場で、毎日、フォード車のシートに使われる合成皮革のカバーを縫う毎日をおくっていた。そんなある日、労働組合のオルグのアルバート(ボブ・ホスキンス)が、彼女たちは「非熟練工」とみなされることになったと告げる。劣悪な労働環境で長時間働いていた彼女たちの不満は、この決定で爆発する。男性メンバーが圧倒的に多いフォード社の労働組合は、アルバートを除いて、会社側の言い分を聞いて丸く収めようとするが、事の本質は熟練/非熟練の問題ではなく、男女で賃金差があることに根ざしていることをアルバートから聞いたリタは、自分のため、自分の同僚たちのため、そして全世界の働く女性たちのために、立ち上がることを決心する...

DVD観賞後、ちょっと調べてみたら、リタのキャラクターは、実際に起きたストライキに関与した複数の女性たちを組み合わせたものらしいが、それでも、ごく普通の労働者階級の女性たちが、1960年代に賃金の男女格差の不平等さに気づいて、大企業と闘って勝利を収めたというのはすごい事である。
こういう話は、いかにもアメリカ的だが、実際にはイギリスで起こり、それが世界の産業国での賃金の男女格差の撤廃につながっていったという史実は興味深いと思った。

ところで、この「Made in Dagenham」って日本未公開なんですね。DVDですら公開されていないのは、かなり意外。
まあ、2010年の作品なので、来年あたり公開されることになるのかもしれないけれど、アメリカでは80%の評論家の支持を集めた評価の高い作品なので、強いヒロインが好きな人、弱者が強者に闘いを挑むといった話が好きな人にはオススメの作品であります。

Wednesday, November 2, 2011

ANONYMOUS



締め切りがすんごいことになっているけど、ずーっと更新していないので、先週観た映画「Anonymous」の感想を簡単に書くことにする。

「Anonymous」は、シェイクスピアの名作の数々を書いたのは、ウィリアム・シェイクスピアという名の人物ではなく、素晴らしい文才を持ちながら貴族という身分上、戯曲を書くことなど許されていなかったというオックスフォード伯、エドワード・ドゥヴィヤーではないかという仮説に基づいた歴史サスペンス・スリラー。監督は、「ID4」や「デイ・アフター・トゥモロー」などパニック映画を得意とする事で知られているローランド・エメリッヒという、ちょっと意外な人選。
エリザベス一世時代の歴史に詳しければ、もっとずっと面白く観られたと思うのだけれど、高校時代、西洋史はあまり真面目に勉強しなかったのがたたって、ウィリアム・セシルって誰だっけ?スコットランドのメアリーとエリザベス一世の関係は?今の英国王室の先祖じゃないんだよね、この人たちは...?などと、途中で何度も「?」マークが去来したのがつらかった。
でも、完全にCGIで再現したロンドンの街や、ロンドン塔、グローブ座などは、さすがCGI慣れしているエメリッヒだけあって、見応えがあった。

ただ、史実に物言いをつけて構築した仮説を基にした作品でも、その仮説を論証しようとするだけでなく、その事象に関わる人物たちを細やかに描いていないと、厚みの乏しい作品になってしまう。その点で、「Anonymous」は例えば「アマデウス」にはちょっとかなわないかなあ...という気はした。

シェイクスピア贋作説については、IMDBからリンクされているクリップでエメリッヒ本人が解説しています:
http://www.imdb.com/video/imdb/vi1157013017/