Friday, March 25, 2011

SUCKER PUNCH



ザック・スナイダーの新作「Sucker Punch」の試写を観た。
(日本では「エンジェルウォーズ」というタイトルになるようで。まあ、「Sucker Punch」じゃ何のことか解らないだろうから--sucker punchを直訳すると「不意打ち」または「いきなりのパンチ」という意--まんまカタカナにするわけにはいかないんだろうけど、「***ウォーズ」って題名の映画が多過ぎないですかね?)

母親が自殺して、残虐な叔父の策略によって精神病院に入れられたヒロイン、ベイビー・ドール(エミリー・ブラウニング)。時代設定が1940年代(多分)ということで、ロボトミー手術を施されそうになる瞬間、それが、舞台劇の一部だということが判る。
舞台劇を演じていたのは、ブルーなる男が経営するクラブで働く女性たち。彼女たちは「パーフォーマー」という名目とで雇われているが、ブルーの顧客を喜ばせるためには売春行為もしている様子。
新入りのベイビー・ドールは、じきにロケット(ジェナ・マローン)や、その姉のスイートピー(アビー・コーニッシュ)、ブロンディ(ヴァネッサ・ハジェンズ)、アンバー(ジェイミー・チャング)と親しくなり、この場所からの脱走計画を提案するが...

予告編では、ブラウニングをはじめ、グッドルッキングな女の子たちが、巨人サムライやゾンビのようなドイツ兵などと戦うところが、なかなかカッコ良かったので、期待して観に行ったのだけれど、始まってしばらくすると、そういうシークエンスも高級めなビデオゲームぐらいにしか見えなくなってきて、後半はかなり退屈してしまった。
構成自体は「未来世紀ブラジル」や「オズの魔法使い」を想起させるところもある面白いものだったりするのだが、ひねりの無い脚本と、平板なキャラ作りと人物描写、陳腐な台詞で、薄っぺらく見えてしまうのが残念。映画を観ていることを常に意識しながら映画を観るのが、こんなに冷めた気持ちにさせられるものだとは思わなかった。

映画評もかなり悪いようで、あとは興行成績に頼るのみ。これで商業的成功も無かったら、「Watchmen」に続く失敗になり、スナイダーのハリウッドでの立場も微妙になりそう。

Tuesday, March 22, 2011

1月から始まった新番組2つ

アメリカでは9月から新番組が始まるが、視聴率が低過ぎて打ち切りになるドラマに代わるドラマとして、1月から始まるドラマもある。
我が家でも、そんなドラマを2つ、観始めた。

1つは、刑事ものの「Chicago Code」。



オーソドックスな刑事ものではあるが、各エピソードで扱う事件の他に、ジェニファー・ビールス演じる女性警視が、警察内部の腐敗を一掃しようとして、市長より権力を持っていると言われている市議会議員(デルロイ・リンドー)と対立するという、第2のストーリーの流れがあって、「The Wire」には遠く及ばないものの、警察内部の政治的構図が描かれていて面白い。
ビールスは、「フラッシュダンス」一発で終わる女優かと思ったら、その後も、細々ながら映画出演を続け、最近では「Lの世界」や「Lie to Me」などのTV出演をこなし、なかなか上手く歳をとっている。

もう1つ、観始めた新番組はスーパー・ヒーローものの「The Cape」。



上に「観始めた」と書いたけれど、実際は、2話まで観て、その後はずっと観ていない。
無実の罪をきせられた正直者の刑事が、スーパー・ヒーロー、ザ・ケイプになって、悪に立ち向かう、という設定は、陳腐だし、脚本も凡庸。さらに、主役を演じるオーストラリア人俳優、デヴィッド・ライオンズにあまり魅力が無い。
アクションもので、ここまでノリが悪いドラマも珍しいかもしれない。

この2本の他にも、1月から始まった新番組、3月から始まった新番組がいくつかあるが、前のシーズンから観続けているドラマが、6本もあるので、なかなか見始めることができない。TV鑑賞を消化するのに苦労するなんて、ちょっと恥ずかしくておおっぴらに言えないんだけど....

Saturday, March 19, 2011

嗚呼、勘違い...



上の写真は3月18日(金)付のロサンゼルスタイムズ紙の一面。
被災した陸前高田を去るムラカミさん御夫婦が親戚の人と別れているところ、だというキャプションが付いているが、その下には、「In Japan, it's about the group」というタイトルで、見出しには「日本の稀なる回復力と冷静さは危機状態においてはさらに明白になっている」とあり、東北大震災に遭遇した日本人たちが、助け合いを基調とする高潔な「ヤマトダマシイ」で頑張っていることを強調した記事が掲載されていた。

ところが、その下には何かをくれ!と手を伸ばしている群衆の写真が載っていて、「もしかして避難所での供給品の奪い合い??だったら、この記事の内容に合わないのに??」と思ったら、中国の蘭州というところでの塩の奪い合いでした。

でも、なんで塩???

中国では、今、日本の放射能が中国に流れて来るというデマが流れていて、被爆には安定ヨウ素剤が効くということで、じゃあヨードを加えた塩を摂取すれば放射線から身を守れる!と思ったらしい。
でも、WHOの発表したところによると、「ヨウ化カリウムは放射性ヨードの吸収は減少させることができるが、それ以外の放射性物質についてはなんら作用しない」とのこと。さらに、「腎臓の病気をわずらっている人がヨウ化カリウムを服用すると、合併症が起きる可能性もある」らしい。
だいたい、福島の原発の放射能は風向きや海流からいっても、中国に流れていく可能性はほとんど無いらしい。そんな、いわば“幻の放射能”のことを心配して、ヨード入りの塩を大量摂取して身体を壊したら、それこそ愚の骨頂ではないか。

日本でも、「ヨードを採っておけば放射能からの害を防げる」と信じて、うがい薬を飲もうとしたという例があったと、どこかで読んだので、勘違いしているのは中国人だけではないのだろうけれど...

放射能と言えば、1950年代、アメリカでは冷戦下の核攻撃に備えて、こんな教育短編映画が作られた。



今では、当のアメリカ人でさえジョークのねたにしかならない「duck and cover」というスローガンだが、当時はしごく真面目に教育されていたらしい。

無知というのは怖いものである。

Friday, March 18, 2011

WIN WIN



前回と引き続き、最近観た映画のことを。

「WIN WIN」の主役は、ポール・ジアマッティ演じる小さな町のしょぼい弁護士マイク。マイクは、弁護士としての稼ぎだけではとても家族を養っていけないため、ちょっとボケ気味の老人のレオ(懐かしや、「ロッキー」のバート・ヤング)の保護者になることで、小遣い稼ぎをもくろむが、レオと音信不通になっていた娘の息子(つまりレオの孫)でティーンエージャーのカイルが、祖父と暮らすためにひょっこり訪ねてきたため、カイルを自分の家に居候させる羽目になる。
カイルは、ダークヘアを人工的な金髪に染めてるし、16歳なのにヘビースモーカーのようで不良っぽいゆえ、マイクの妻ジャッキー(エイミー・ライアン。好演)は最初、迷惑顔になるが、次第にカイルが根は優しい良いなの子だと気づき、母親代わりになろうとする。
一方、マイクは、自分がコーチをしている高校のへなちょこレスリング・チームの練習に暇そうにしていたカイルを連れて行くが、カイルがレスリングが上手でビックリ。カイルは実は住んでいたオハイオ州の大会で第2位になったほどの腕だった...

ストーリーは、ある程度予想がつく展開なのだが、マイクとカイル(この映画でデビューした新人のアレックス・シェファー。なかなか良い味出している)、カイルとジャッキー、カイルとレオのやりとりが、実に自然な感じで良い。ああ、こういう人たちって本当に居そうだと思ってしまうリアリティがあった。
ちなみにタイトルの「WIN WIN」とは、自分も「勝てる」し、相手も「勝てる」 、つまり、両方にとってプラスになる、得になるという意味。 この作品の場合は、もちろん、レスリングにもかけてあるタイトルになっている。

監督は、気弱なキャラを演じることが多い俳優のトム・マッカーシー。評判になった監督2作目「扉をたたく人」も観てみたくなった。

Wednesday, March 16, 2011

BATTLE: LOS ANGELES



3月10日夕方、エイリアンがロサンゼルスをはじめ、世界各地の大都市を攻撃するという設定のdisaster movie(パニック映画)「BATTLE: LOS ANGELES」の試写を観に行った。このテの映画は、それほど興味が無いのだけれど、暇だったし、試写だからタダだし、上映場所も比較的近くの映画館だったので友人を誘って行ってきた次第。

「大空港」(1970)や「ポセイドン・アドベンチャー」(1972)など、パニック映画の名作では、必ず、主要な登場人物たちが的確に描写されていて、観客たちが彼らの運命を心配してハラハラドキドキするように作られている。
ところが、「BATTLE: LOS ANGELES」では、人物描写をほとんどはしょってしまっているものだから、エイリアンたちが攻撃してきて人間たちが逃げまどったり反撃したりしても、ビデオゲーム的な興奮は生まれるかもしれないが、結局、それだけ終わってしまう。

もう1つ、非常にイライラしたのは、何かと言うとすぐ「俺たちは海兵隊だ」、「海兵隊は諦めない!」みたいな、いかにもアメリカ的軍隊マッチョなスローガンが前面に押し出されてくる点。特に、ラスト近くのシークエンスでは映画館の暗闇の中で思わずのけぞって失笑しそうになった。いいかげん暑苦しい。勘弁して欲しい。

試写から帰宅して間もなく、友人からのメールで日本で大地震が起きたことを知った。
それから、丸1日は実家で独り暮らしをしている父が無事であることの確認をするために、あちこちに連絡しまくって過ごす。
本当に気の休まらない週末だった。

Monday, March 7, 2011

LAW AND ORDER: LOS ANGELES


<地方検事から刑事に「キャリア・ダウン」したアルフレッド・モリーナ>



ロサンゼルスを舞台にしたTVドラマはなぜかキャンセルの憂き目にばかり遭っているような気がする。

2002年9月に放映開始されたLAPDの刑事たちの活躍を描く「Boomtown」はシーズン2に入って6話目を放映したところでキャンセルになってしまったし、世界中の人々が一斉に失神状態におちいるという謎を追うSFサスペンスドラマ「フラッシュフォワード」も2009年9月から始まった1シーズンだけで打ち切りになってしまった。
今シーズンから始まった「LAW AND ORDER: LOS ANGELES」は題名の中にまでLAが出て来るゆえ、ドラマの中にも知っている名前が次から次へと登場。1度など、我が家のすぐ近くを流れる運河で死体が発見されるというエピソードがあって、「あらあら、あんな所で死体がねえ」なんて変に感心したりして。

その「LOLA」も、視聴率が思わしくなかったようで、12月にいったん放映が休止。このままキャンセルされてしまうのかと悲しく思っていたら、来月、4月にまた放映が再開されるという嬉しいニュースを聞いた。
ただし、キャストに入れ替わりがあり、主演の刑事2人のうちの1人を演じていたスキート・ウーリッチが降板。その後をアルフレッド・モリーナが継ぐそうなのだが、問題は、モリーナは既にこの番組で地方検事リカルド・モラレスとして登場していること。この変更について、「LAPDの現体制に疑問を持ったモラレスが検事局を去って、昔勤務していたLAPDに戻る」というストーリーにするらしいが、地方検事になった人間が辞職して、給料がずっと低い上、生命の危険がずっと大きい警察に戻ったりなどというのは、およそリアリティが無い。ウーリッチを降ろすのだったら、同じ程度の知名度で同じ程度のギャラを払う別の俳優をキャストすれば良いだけの話だと思うのだが。

そういえば、「CSI:ニューヨーク」でも、検死官が捜査の第一線で活躍したいから、とかいう理由で、NYPDの科学捜査班に加わったり、「CSI:科学捜査班」では、医学部の教授が捜査の現場を生で経験したいからと言って転職したりと、キャリア・アップならぬキャリア・ダウンをする人たちが続出している。
前者は人気の出て来た俳優の出番を増やすため、後者は中年の俳優を捜査チームのルーキー捜査官としてキャストするための、苦肉の策なのだろうが、いずれのケースも、苦労して医学部を出て現職に就いた人間が採りそうな選択ではないゆえ、すごくそらぞらしく見えて、白けてしまったのでした。

Sunday, March 6, 2011

The Adjustment Bureau



少し前からビルボードで宣伝されていて気になっていた「The Adjustment Bureau」(日本公開題名は「アジャストメント」)という映画。ルネ・マグリットの絵の中に出てきそうな格好をしたスーツ姿に帽子姿の男たちが出て来る映像を含む予告編を観てからは、いっそう好奇心をかきたてられていたので、試写会の案内状が来た時は即、RSVPした。

「アジャストメント」の主人公デイヴィッドは、ニューヨーク州の上院議員を目指す若き政治家。有利に進めていた選挙戦だったが、最後の最後にちょっとしたスキャンダルが報道されて、落選の憂き目を見る。敗北宣言をすることになっていたデイヴィッドは、自由な心で生きているダンサー、エリスと出逢い、彼女に強く惹かれるが、連絡先も聞かないまま別れてしまう。ところが、数日後、バスの中でエリスと運命的な再会を果たし、彼女の電話番号を聞き出す。それが、奇妙な冒険の始まりだとは知らずに...

「アジャストメント」は、人間の人生やこの世界の運命は最初から決められており、偶然の積み重なりに見えた事も全て或る大きな力によってコントロールされているという仮説に基づいている。その運命が狂い出した時、その大きな力(映画の中では単にChairman=会長と称されているが暗に「神」のようなものを暗示しているのは明らか)が軌道修正、すなわちadjustmentを行なうというわけである。
その軌道修正を担うのは「調整局」というレトロなスーツ姿の男たちであり、彼らは街中のドアを使って自由に空間移動をすることができる。(この映画を観た日本人で「ドラえもん」のどこでもドアを思いつかない人間は居ないと思うー笑)このあたりが、ちょっと近未来SFっぽいなあと思っていたら、それもそのはず、「アジャストメント」は近未来SF小説の名匠フィリップ・K・ディックの短編小説を基にしたものだった。

ロサンゼルス・タイムズ紙のケネス・テューランが指摘したように、「アジャストメント」はSFとしてよりも運命的に出逢う男女の物語として観た方が楽しめるというところもあったし、個人的にはエンディングがちょっと甘い気もしたけれど(まあ、ハリウッド映画に「未来世紀ブラジル」のようなエンディングを期待する方が無理か)、良質な作品であることは間違いない。

なんたってリーアム・ニーソン



さっきDVDで「96時間」を観た。
原題は「Taken」。連れ去られた、それだけのいたってシンプルな題名。連れ去られた娘を連れ戻す、それだけの映画だから、非常に的確な名前である。
主演のリーアム・ニーソンは、身長193cmの体格。ボクサーだった経歴があるだけに、シュワルツェネッガーやスタローンのような人工的な筋肉の付き方をしている体つきではないが、リアルな強靭さがある。

「96時間」の主人公、ブライアン・ミルズは元CIAという設定になっていて、それだけに娘が誘拐されたことを知った後の行動が実に素早く無駄が無い。格闘シーンでは、何人ものアルバニア人たちやアラブ人が寄ってたかってかかってきても、一人で難なく片づけてしまう超人ぶりで、一緒に観ていた配偶者は「オーマイガっ!あんなに沢山、居る中に独りで入って行くなんて無茶だよっ!」なんて本気で心配していたが、私なんぞは「いや、大丈夫。なんたってリーアム・ニーソンだからね」という気持ちで余裕で観ていられた。
だいたい、こういう映画では、ヒーローは必ず苦境におとしいれられている乙女(英語ではdamsel in diestressという決まり文句になっている状況)を救うことになっているわけだけど、そのヒーローがリーアム・ニーソンなら間違いなく、乙女は助け出される。
リーアム・ニーソンには、そういう、ちょっと超人的なカリスマがある。「シンドラーのリスト」で、スピルバーグがシンドラーをあたかも神を崇めるような視線で描いたのも大いにうなずける。

そんなリーアム・ニーソンですが、「愛についてのキンゼイ・レポート」のインタビューのために御会いした時は風邪をひいていたかなにかで、体調が思わしくなかったこともあって、しょぼしょぼした元気の無いオジサン、という印象でした。(とほほ)
「96時間」を撮った時はそれから4年も経っていたわけだし、この間ブログに書いた「身元不明」の時はさらに歳を取っていたわけだけど、そんな年月を感じさせないアクション。
なんたってリーアム・ニーソンですからね。ちょうど10歳年上のハリソン・フォードに代わるシニア・アクション・スターの筆頭になりつつあるのは嬉しい限りです。

Wednesday, March 2, 2011

RANGO



ジョニー・デップが「コープス・ブライド」以来2回目の声の吹き替えを担当する「ランゴ」を試写で観た。(日本公開は9月の予定)

主人公のカメレオン、ランゴは、人間のペットだったが砂漠に置き去りにされてしまい、砂漠の生物たちが住む西部開拓時代そのままの町、ダート(Dirt=土、ホコリ)に流れ着く。ランゴがダートに着いて間もなく、毎週水曜日に支給されていた水が出なくなるという事件が起こる。口から出まかせで「自分はならず者一家を倒した」と言ってしまったランゴは、引っ込みがつかなくなって保安官のポジションを与えられ、町民たちに水を取り戻すと約束するが...

今どきのアニメーションは、子供の観客だけでなく大人の観客も満足させないと商売にならないから、各作品、いろいろな「仕掛け」を用意してくれるようになってきたが、「ランゴ」は、明らかにマカロニ・ウエスタンも含めた西部劇ジャンルにスタイルを借りていると同時に、サブテキストとしてポランスキーの「チャイナタウン」を持ち込んだことで、大人の映画ファンを喜ばせることになると思う。(一般公開は明後日の3月4日なので、映画評は出揃っていないのだけれど。)

監督はゴア・ヴァービンスキー。「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズの監督だが、より若年の子供向けの「ランゴ」の方が遥かに丁寧に作ってあるのは、興味深い。