Sunday, November 10, 2019

「ドクター・スリープ」鑑賞の手引き

スティーヴン・キングが「シャイニング」の続編として書いた「ドクター・スリープ」の映画化作品が先週の金曜日からアメリカで公開されている。


「ドクター・スリープ」は、「シャイニング」で描かれたオーバールック・ホテルの惨劇を生き延びたダニー(ダン)と、彼よりもさらに強烈に”輝く(shine)”少女アブラが、自分たちのようなシャイニングを備えた者たちを餌食にして生き延びてきた集団トゥルー・ノットと闘うサスペンス・ホラーである。

「シャイニング」は、1980年に名匠スタンリー・キューブリックが映画化。モダン・ホラーの傑作として知られているが、原作者のキングが大いに気に食わなかった映画化作品としても有名である。
「ドクター・スリープ」は、一言で言えば、あたかもキングとキューブリックの仲を取り持とうとしたかのような作品である。しかし、それを理解するには以下の3つの条件をクリアする必要がある:
1)「シャイニング」の原作を読んでいる
2)「シャイニング」の映画化作品を観ている
3)「ドクター・スリープ」の原作を読んでいる

3つの条件を全て満たすのは大変すぎる、無理、という人でも、少なくとも「シャイニング」の映画化作品は観ておかないと、「ドクター・スリープ」は観る意味は無いでしょう。
「シャイニング」の映画は観たけど、「シャイニング」の原作と「ドクター・スリープ」の原作、2冊も読むのは無理、という場合であるならば、「シャイニング」の原作を読む方を優先させましょう。その方が、「ドクター・スリープ」を観た時に、「おお、そう来たか!」と思えます。でもって、「ドクター・スリープ」は映画鑑賞後に原作を読むのも、或る意味、面白いはず。

キューブリックの「シャイニング」は5回以上観た、原作も3回以上読み直した、「ドクター・スリープ」ももちろん読んだ、という私のようなマニアックなファンの場合、「ドクター・スリープ」の映画化作品は、ニヤリとさせられるディテールが盛りだくさん。もっとも、「やり過ぎだろーが、それは」と呆れさせられる場面もありましたが…

「ドクター・スリープ」、日本公開は11月29日の予定。

Saturday, February 23, 2019

オスカー予想@KPCC



最近よく聞くNPR (National Public Radio)のパサディナ局、KPCCが、昨日、4人の映画評論家によるオスカー予想パネル・ディスカッションを放映していたので、覚書的に書いておくことにする。
*「観客票」は拍手のボリュームで観客の支持する作品を判断していた
*リンクした作品は、わたし的2018年ベスト10入りさせた作品

*作品賞
本命:「ROMA/ローマ」
穴馬:「ブラックパンサー」「ボヘミアン・ラプソディ」
観客票:「ROMA/ローマ」

*監督賞
本命:アルフォンソ・キュアロン「ROMA/ローマ」
穴馬:ヨルゴス・ランティモス「女王陛下のお気に入り」
観客票:キュアロン、スパイク・リー「ブラック・クランズマン」

*主演男優賞
本命:ブラッドリー・クーパー「アリー/スター誕生」
穴馬:ウィレム・デフォー「永遠の門 ゴッホの見た未来」
観客票:レミ・マレック「ボヘミアン・ラプソディ」

*主演女優賞
本命:オリヴィア・コールマン「女王陛下のお気に入り」
穴馬:グレン・クローズ「天才作家の妻−40年目の真実−」
観客票:クローズ

*助演男優賞
本命:リチャード・E・グラント「ある女流作家の罪と罰」
穴馬:サム・エリオット「アリー/スター誕生」、マハーシャラ・アリ「グリーンブック」
観客票:グラント、エリオット、アリで票割れ

*助演女優賞
本命:レジーナ・キング「ビール・ストリートの恋人たち」
穴馬:エマ・ストーン
観客票:キング

*オリジナル脚本賞
本命:「グリーンブック」
穴馬:「女王陛下のお気に入り」
観客票:「グリーンブック」

*脚色賞
本命:「ある女優作家の罪と罰」
穴馬:「ブラック・クランズマン」、「ビール・ストリートの恋人たち」
(観客票、聞かず)

*アニメーション賞
本命:「スパイダーマン:スパイダーバース」
観客票:「スパイダーマン:スパイダーバース」

いろいろ妥当だと思うラインアップ。
面白かったのは、パネリストたちが「本当は**に受賞してもらいたいけど、おそらく##が受賞すると思う」とコメントする事が多かったこと。自分の評価と、票を集める作品・映画人はズレる事が多々あるからねえ。特にアカデミーは、年配の会員が多いから、どうしても観やすい作品や、わかりやすい力演・熱演に票が集まりがち。

さて、今年のオスカー受賞はどうなるかな?
我が家では、毎年の恒例行事、LA タイムズ紙に付いてくる投票用紙にあらかじめ予想をチェックし、「当たった〜!」「外れた〜!」「どうして、あんなヤツが受賞するんだ〜?」と大騒ぎしながらのTV観戦(?)となる予定です。

Sunday, February 3, 2019

2018年に観た映画わたし的ベスト10

2018年に観た映画ベスト10を書こう書こうと思っている間に新年になり、1月中に書こうと思って書き始めたら、コンピューターがフリーズして、書いた分の半分以上が消えてショックが大き過ぎてしばらく放置してしまった…

まあ、それはともかく…

前半は娘の高校・バレエ卒業と大学進学準備に追われ、後半はempty-nesterとしての生活の切り替えにまごまごしているうちに終わってしまった2018年だったが、娘のバレエ教室送り迎えが無くなって試写会に自由自在に行けるようになった事に加え、1ヶ月10ドルで3本まで好きな映画が観られるMoviePassなる会員制映画鑑賞プログラムに入ったので、9月以降は観に行く映画がグッと増えた。それでも数えてみたら、まだ年間50本に満たない数。ガンガン名画座に通った日本での学生時代や、授業のための上映や映画人を招待しての試写が毎日のようにあった映画学科の大学院時代とは比べ物にならないが、映画館に行く自由度が18年前に戻った感があって嬉しい。

という事で、2018年に映画館で観た映画のベスト10を選んでみた。

No.1
「女王陛下のお気に入り」(The Favourite*)*イギリス英語だとfavoriteはfavouriteと綴るらしい
1702年から1707年にかけて在位した英国のアン女王と、彼女の女官を務めたサラ・チャーチルとアビゲイル・メーシャムという女性たちの三角関係を描いた宮廷ドラマ。
王室ものというと「エリザベス」とか「英国万歳!」といった、複雑な人間関係が非常に興味深いが堅苦しい感じの否めない作品を思い浮かべるが、「女王陛下のお気に入り」は、奇妙でユニークな作風で知られるヨルゴス・ランティモス(「ロブスター」)が手がけたゆえ、ブラック・ユーモアと辛辣な感情描写に満ちていて観ていて全く飽きるところが無かったのが見事。フツーのドラマでは飽き足らないという人には必見の秀作だった。




No.2
「バスターのバラード」(The Ballad of Buster Scruggs)
大好きな監督の1人、コーエン兄弟の新作。開拓時代の西部を舞台に、短編小説の映像化という形で展開するオムニバス映画。詳しくは過去のブログを御参照ください:http://www.cinemanerd.com/2018/11/blog-post_24.html




No.3
「ROMA/ローマ」(Roma)
大好きな「トゥモロー・ワールド」の監督、アルフォンソ・キュアロンが、メキシコシティで育った少年時代を回想して作った自伝的作品。冒頭、掃除されている床が映るがしばらくして、そこに水が流され、突然、そこに空が映ってスクリーンとなり、そこを飛行機が画面を横切る映像の詩情に感嘆。全編がそのような静かな映像詩に満ちていて、小津やトリュフォー、あるいはフェリーニの作品を想起させるところも映画マニアには堪らない秀作。



No.4
「妻たちの落とし前」(Widows)
夫たちの犯罪を見て見ぬ振りしてきた妻たちが、強盗に失敗して命を落とした夫たちがやらないままにしていた銀行強盗計画を実施するよう迫られるという設定のノワール。ヴィオラ・デイヴィス、ミシェル・ロドリゲス、エリザベス・デビッキ(「コードネームU.N.C.L.E.」)、シンシア・エリヴォという、人種も年齢も社会的階級も異なる4人の女性が寄り集まって実行不可能に思われる犯罪計画を進めていく過程が実にスリリング。「それでも夜は明ける」で人種差別の理不尽を追求したスティーヴ・マックィーンが女性軽視の理不尽にスポットライトを当てている点にも要注目。




No.5
「アリー/スター誕生」(A Star Is Born)
とにかく、ヒロインを演じるレディ・ガガの存在感は圧倒的。ジャクソン・メインに誘われて初めてステージに立って絶唱するシーンは鳥肌が立った。ストーリー自体は、過去に3本も作られているだけあって目新しくはないが、ブラッドリー・クーパーとガガの相性がバッチリで、最後までダレること無く観客をグイグイ引っ張る牽引力にも拍手。




No.6
「クワイエット・プレイス」(A Quiet Place)
ホラーは苦手な私だけれど、独創的なストーリーと無駄の無い演出に感心させられた。

この予告、「IT」を引き合いに出しているけど、全く質の違うホラーだと思うんだけどなあ…ヒット作なら何でも出しちゃえ、という宣伝はヨクナイよ…

No.7
「ブラック・クランズマン」(Blackkklansman)
久しぶりにスパイク・リー作品を観た。彼の作品は政治スローガン色が濃すぎて敬遠しがちなのだけれど、この作品は肩の力が良い具合に抜けていて、楽しく観られて良かったな。


No.8
「グリーンブック」(Green Book)
ホリデー・シーズンに相応しく心温まる映画。私の個人的テイストには少しばかり甘過ぎるのだけれど、世知辛い世の中になっているので、たまにはこういう映画も良いと思った。


No.9
「ブラックパンサー」(Black Panther)
ブラックパンサーより、オコエ将軍(ダナイ・グリラ)のファンになった。以上。

オコエ将軍紹介クリップ


No.10
「スパイダーマン:スパイダーバース」(Spider-man: Into the Spider-Verse)
「スパイダーマン」を今更アニメーションで観るの?という疑問が無いでもなかったけれど、観て良かった!と思わせる優れもの作品。丁寧に作られているのがよく判るのも好感が持てた。



番外編:
「RBG」
去年の公開時に劇場で観逃してしまったのでDVDで鑑賞したが、劇場で観ていたら間違いなく去年のベスト5入りしていただろう作品。女性たちにとっての最強ヒーローであるアメリカ合衆国最高裁判所判事のルース・ベイダー・ギンズバーグのドキュメンタリー。劇映画化された「ビリーブ 未来への大逆転」(On the Basis of Sex)の方が日本公開が先になるが、このドキュメンタリーの方が出来はずっと上だと思うので、こちらもお見逃し無く!