Friday, November 5, 2010

PROJECT STEINWAY

配偶者の叔母が8月に亡くなった。
デンマーク人の叔母は、アメリカ人と結婚して故郷から遠く離れて暮らす私を同志のように思ったのか、何十年も知っている姪や甥と同じように私のことを可愛がってくれた。
私を気に入ってくれたもう1つの理由に、私が彼女のスタインウェイで夫が好きだったというベートーベンのソナタを弾いたこともあったのではないかと思う。子供に恵まれなかった彼女は養女をもらったが、その子はピアノが嫌で嫌でしょうがなくて結局、叔母もすぐにレッスンを受けさせることを諦めたらしい。
私の娘もピアノを弾くようになり、叔母にも何度か習った曲を聴かせた。

そんなこともあって、叔母は遺書の中で、「スタインウェイは甥の一家に譲ること」という一文を遺してくれたという。

それ自体は、非常にありがたいことで、私たちは叔母の配慮に心から感謝したのだが、問題は、このスタインウェイ、90歳という「高齢」で、修復が必要だったことである。

このピアノは、配偶者の父方の祖母が結婚祝いに贈られたというもので、祖母が亡くなった際、一家の中で唯一ピアノが弾けた叔母が譲り受けた。骨董に非常に目が利いた叔母は、スタインウェイのグランドピアノの価値についてもよく知っていたのだと思う。ただ、彼女は子供の時にピアノレッスンを受けたきりという程度の腕前だったので、このピアノはあまり弾かれることなく歳を重ねていた。私が弾いた時にも、さすがにスタインウェイなので素晴らしい質感の音を出していたが、鍵盤のタッチは鈍く、音の出ないところも何カ所かあった。

ピアノの修復にはすごいコストがかかるということは、覚悟していたのだが、1万5000ドルという見積もりを聞いた際は、配偶者も私も「うーん...」と唸ったきりになってしまった。1万5000ドルと言えば、程度の良い中古車が1台買える。私は別にピアノで生計を立てているわけではないし、娘だって将来、音楽を専門にすることはまず無いだろう。そんな私たちが、そんな大金を出してスタインウェイのグランドピアノなどという身分不相応な物を所有するべきなのか...

配偶者も私もそんな気持ちを抱えたまま、先月、叔母を偲ぶ会に出席するついでに、そのスタインウェイを再度、見に行った。試しにピアノの蓋を開けて、少し弾いてみた。うーーーん、やっぱり欲しい...損得を考える頭とは別の身体の中のどこかでそういう気持ちが沸き起こって、配偶者と私は、叔母の遺品を整理していた彼女の恋人に「このピアノ、いただきます」と宣言。
私は、いったん気持ちを決めるとすぐに行動する人間なので、LAに戻るとすぐに、娘が以前習っていたピアノ教師に紹介してもらったスタインウェイの修復師に連絡を取り、彼の工房まで配偶者と2人で会いに行って、修復を依頼した。ロシア生まれで、ピアノ修復歴40年という修復師、ジーンは、叔母の恋人が問い合わせてくれたピアノ業者よりも少し安い1万2500ドルで修復を約束してくれた。

修復には1ヶ月と1週間かかるということなので、このスタインウェイ、私たちにとっては最高のクリスマス・プレゼントになりそうである。


ピアノの仕上げ塗装の色を決めに、ジーンの工房を訪れたら、私たちのピアノは、中身を抜かれた状態になっていた。


取り外されたプレート。このカーブとかも、スタインウェイ独自のもので、内部の部品の多くが特許製品なのだとか。


修復師のジーンさん。ピアノだったらどんなメーカーの製品も扱うが、特にスタインウェイの修復が得意。彼のピアノ談義は非常に面白い。

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