Sunday, January 22, 2012

見てから読んで、また見た:ドラゴン・タトゥーの女

「見てから読むか、読んでから見るか」というのは、1970年代、角川が書籍と映画のシナジー効果を狙った商法で謳ったコピーだったが、スティーグ・ラーソン著の「ミレニアム」3部作の1作目、「ドラゴン・タトゥーの女」では、見てから読んで、それからまた見るというメディアの「はしご」をした。

「ドラゴン・タトゥーの女」は、罠にはめられて名誉毀損で有罪になってしまったジャーナリスト、ミカエル・ブルームクヴィストが、大企業ヴァンゲル・グループの会長から、40年前に消息を絶った姪のことを調査するように頼まれ、雪深いヘーデスタに出向くが、次第に思ってもみなかったほど邪悪な事件に巻き込まれていくというミステリー小説で、世界各国でベストセラーとなった。

まずは、去年の暮れにラーソンの原作をデヴィッド・フィンチャーが映画化した「ドラゴン・タトゥーの女」を観る。

主役のミカエル・ブルームクヴィストにはダニエル・クレイグ。相手役のリスベット・サランデルにはルーニー・マーラというキャスティング。舞台は原作同様スウェーデンのまま。台詞は英語で話されるが、クレイグをはじめとしてイギリス人俳優を多数起用し、他に地元スウェーデンやオランダ出身の俳優をキャストしたことで、ヨーロッパ色が強く出る作品になっている。
サスペンス・スリラーを得意とするフィンチャーだけに、2時間半の長尺だが、全く飽きさせることなく観客をぐいぐいと引き込んでいく演出力はさすが。ミステリー・ファンとしては大いに楽しめる作品だった。

次に読んだのは原作の日本語訳書「ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女」。

実は、この本、去年の夏の帰省時に実家近くの図書館で借りて読み始めたのだが、読書する時間があまり取れなかったため、上巻を2/3ほど読んだところで、アメリカに戻る日が来てしまい、続きをずっと読めずにいてもどかしい思いを抱えていたところだった。しかたなく、アメリカで英語版を読み始めたものの、スウェーデン語からの英訳のせいか、何となく読みづらくて、こちらは途中で放棄。今回の年末年始の帰省時に、なんとか図書館が年末年始休暇に入る前に滑り込みで、無事借り出せて、やっと読破。
フィンチャー版が、或る1点を除いては実に原作に忠実に映画化されていたことを認識した。

そして、昨夜DVDで観たのは、地元スウェーデンで映画化された「ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女」。

こちらは、「ミッション・インポッシブル/ゴースト・プロトコル」で悪役のロシア人を演じていたミカエル・ニクヴィストがブルムクヴィストを演じ、「シャーロック・ホームズ シャドウゲーム」に出演しているノオミ・ラパスがリスベットを演じている。(もちろん、ニクヴィストもラパスも「ミレニアム」シリーズのヒットでハリウッド映画の大作で主要な役にキャストされたわけなのだろうけれど。)

さて、同じ素材を3ヶ国語、3作品で鑑賞したことになるが、一番スリリングで面白かったのはやはり原作だろう。原作はヘレンハルメ美保氏と山田美明氏の2人の共訳ということになっているが、あとがきを読んだら、なんと山田氏がフランス語版から訳したものをヘレンハルメ氏がスウェーデン語の原著と照らし合わせて直していったという作業だったとのこと。一般に、訳書だと文章がどことなくぎこちなくなったりしがちだが、本書についてはそのようなギクシャクとした感じが全く無く、上手い訳だと感心していただけに、スウェーデン語→フランス語→エ日本語という2段階の翻訳プロセスを通しての訳書だというのは意外だった。印象的な日本語訳に感心したのは、記憶に残っている限りは、スティーヴン・キングの作品を訳していた深町真理子氏に次いで2回目である。
映画化作品については、個人的にはフィンチャー作品の方が楽しめた。前述したフィンチャーの演出力でスリリングな場面がスウェーデン版よりもさらにスリリングだったこと、ヴァンゲル一家に潜む闇の冷たさを心象風景化したような冬のスウェーデンの映像が印象的だったこともあるが、ブルムクヴィスト役にクレイグをキャストしたことも大きかったように思う。原作のブルムクヴィストは、ジャーナリストとしては欠点もあったりする人物だが、とにかく人好きがする人物として描かれ、彼の魅力に参ってしまう女性が3人ほど登場する。しかし、スウェーデン版のニクヴィストはあまり魅力的な男性には思えないし、そのような人物には描かれていない。一方、リスベットに関しては、フィンチャー版を観た際にはマーラは適役だし力演していると思えたが、ラパスのリスベットの方が、より共感をおぼえるし観客としても惹きつけられる。このあたりは、芸暦6年、26歳のルーニーに対し、出演当時で既に芸暦21年、30歳のラパスとの力量の違いなのだろうと思う。

観てから読んで、また観た「ドラゴン・タトゥーの女」だったが、「ミレニアム」シリーズ第2作「火と戯れる女」については、まず原作を読もうと、ロサンゼルス・シティ・ライブラリーから日本語訳書をチェックアウトして今日、早速読み始めたところ。原作を読み終えたら、既に完成済みのスウェーデン版映画化作品をDVDで観てみようと思う。楽しみ~~~!

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